ごみから生まれた楽器で、
環境への思いを。
〈前編〉

Stijn Claeys/ミュージシャン、エンジニア

音楽とエンジニアリングが私の原点。

ステージ衣装はガスマスクと防護服。手にする楽器はごみから作り上げたオリジナル──。Trashbeatzを率いるStijn Claeyes氏を支えるものは型破りなものづくりを愛するエンジニア精神と、いろいろな楽器に親しむ中で育まれてきた音楽への情熱だといいます。

エナジーをストレートに伝えられるパーカッションが好き。

音楽好きな母からの影響で、音楽漬けの幼少期を過ごしました。音楽スクールに通い、ピアノやトランペットを習いだしたのは6歳のときです。10代の頃にはトロンボーンやホルンといった楽器にも親しみます。なかでも熱中したのが、12歳の頃に出合ったパーカッション。今思えば、他の楽器に比べて自らのエナジーをストレートに伝えられるところが自分好みだったのだと思います。

メロディ楽器に比べてアドリブでの演奏がしやすいことも、パーカッションを気に入った理由です。クラシック中心の音楽教育を受けてきた当時の私は、楽譜を前にしての演奏はできても、アドリブでの演奏はできませんでした。友人から前ぶれなく「ピアノを弾いてよ」と請われても満足に応えられず、いつももどかしい思いをしたものです。そんな中で、初めて即興演奏の感覚をつかめたのはパーカッションのおかげ。音楽を生み出すのに必要な「ゼロから音楽を発想する感覚」は、こうして養われました。

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家族の集まりでドラムをプレイ。当時7歳。幼い頃から、ピアノやトランペットなどの楽器に親しんできた。

楽器づくりに通ずる、エンジニアリングの精神。

10代前半は学校と音楽スクールを往復する日々でしたが、将来の進路には音楽を選びませんでした。これは両親のすすめもあってのことです。専門学校でエンジニアリングを専攻しだしたのは18歳のとき。当時から楽器の仕組みや、電子楽器のメカニズムに興味があった私です。エンジニアリングも十分に魅力的な選択肢でした。こうして10代後半は、音楽を続けるかたわらで、イコライザー制作などに熱中したものです。

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高校の卒業制作として手がけたイコライザー。求めていた音を作れた上に、良い成績も取れた。

ものの仕組みを理解すること。既成概念にとらわれず、新たな形を探求すること。エンジニアリング的な思考には、オリジナル楽器の制作に通ずるところがあります。たとえばギターという楽器は、紆余曲折を経て現在の形に行き着きましたが「この形でなければならない」という決まりはありません。違う形でも同じ音は出ます。材料が木である必要すらないでしょう。音が発生するメカニズムを根本から理解していれば、ごみからでも楽器は作れます。こうしたエンジニアリングの発想と、さまざまな楽器に親しんできた経験が交差したところにTrashbeatzの原点があったのだと思います。

お金をかけずに新しい楽器をつくる、という挑戦。

Trashbeatzが生まれた直接的なきっかけは、ユースクラブを支援するNPO団体で実施したワークショップです。せっかくなら前例のないチャレンジをしたいと、今もともに活動するKoen Booneと「ごみから楽器をつくる」という着想を得ました。新しい楽器を作るだけでもワクワクしますが、材料がごみならお金がかからないのもポイント。早速クルマ2台分ものごみをかき集め、打楽器を制作するワークショップを開催しました。

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みんなでオリジナル楽器を作るワークショップのために、材料となるごみをクルマで集めてまわった。

参加者とともに楽器を作って練習を重ねた2日間。締めくくりには小規模のコンサートも開催しました。初めて楽器を演奏する参加者が多かったせいか、音楽に触れる歓びや興奮に溢れたひとときになりました。ごみを扱うため、着用していたガスマスクと防護服も大好評。結果的にTrashbeatzのトレードマークになったほどです。ここで手応えをつかんだ私たちは、その後も各地でワークショップやコンサートを開くようになります。これがTrashbeatzのはじまりです。

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ごみから楽器を生み出すワークショップを、2003年にブリュッセルで初開催。楽器だけでなく曲も作り、オーディエンスの前でプレイした。これがきっかけとなりTrashbeatzは生まれた。

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Stijn Claeysミュージシャン、エンジニア
ベルギー・ヘント出身のパーカッション奏者。ハイテクカンパニーでエンジニアとしてフルタイムで働く傍ら、音楽活動に従事する。ごみから楽器を作成し、ガスマスクと防護服の衣裳を身にまとって演奏するバンド「Trashbeatz」の発起人として、資源を守るためのメッセージを発信している。次なる目標はアルバムリリースと世界ツアー。

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